第8章~出会い系?
S氏と会うために大阪に行くと言ったのはいいが、新幹線で往復すると
2万円を超えてしまう・・・。
最近絶不調モードの競馬が続いているため、予算は限られていた。
仕方なく行きは深夜バスで行った。
夜12時を少し前に新宿を出発して、翌朝8時には大阪、難波に着く。
料金は新幹線の1/3。
バスは恐ろしいことに満席だった。
しかも、若い人ばかりだった。
隣の座席に、綺麗な女性でも来るかも知れないと言う
淡い期待も、背の高い帽子を被った変な兄ちゃんが座った事で
見事に打ち砕かれた。
眠くなかったけど寝るしかなかった。
夜中に何度か目を覚ましながらようやく大阪難波に到着した。
初めての大阪である。
S氏との待ち合わせには少し時間があった。
ロイヤルホストで朝食をとる。
「こちらの席で宜しいですか?」
店員のネェちゃんが、丁寧語なのだが、「宜しいですか」の部分が
やはり関西のイントネーションである。
大阪に来たんだなぁと、物思いにふける。
そして、約束の時間に、難波の駅に到着した。
S氏は電車に乗ってやって来るらしい。
今は携帯電話があるので、アバウトに待ち合わせ場所を決めても
大丈夫だ。
予め、メールでどんな格好をしているか伝えた。
まるで、出会い系?(苦笑)
かわいいネェちゃんとだったらいいけど、50過ぎのおっさんと
出会わなければいけなかった。
なんば駅コンコースの三菱UFJ銀行の前で待っていると
こちらに向かって歩いてくる人がいる。
(え~この人???)
「Sさんですか?」
思わず口からその言葉を発しようとした瞬間に、目の前を素通りして行った。
(なんや、ちがうやんか・・・)
何故か関西弁で独り言を言う。
そして、S氏が駅に到着したと電話をくれた。
不覚にも前日階段で転げて捻挫したと言っていた。
だから、びっこを引いている人を探せば簡単だった。
でも、またもや、変なオヤジが近寄ってきた。
(また、人違いやろ)
そう思った次の瞬間、
「Sです」
「あ、どうも。竹岡です。捻挫したって言ってたのでずっと
足を引きずっている人を探していましたよ。」
年は自分より確か10才年上と言っていたので55才のはずである。
若く見られるとは聞いていたがそんな、極端に言えば自分より
若いのではないかと思われるほど、いわゆるオヤジの出立ちではなかった。
(やっぱり、馬券で儲けていいもん食ってるんちゃうやろか)
頭は完全に関西モードになっていた。
とりあえず喫茶店に入り、馬券の奥義や他愛ない会話をした。
不思議と初めて会った気がしなかった。
「競馬の仕事で食っているっちゅうから、どんなやつやねんと
おもっとったけど、メチャメチャ普通やねん?」
S氏は私を見て言った。
「殆どサラリーマンでっせ」
昔から、顔が怖いだの、天然パンチパーマだの言われ続けてきた
ので、何を言われようが全然気にしないが、少し嬉しかった。
S氏は昔は某大手メーカーに勤めていたサラリーマンだったそうである。
その安泰な職を捨ててまで競馬で食っていこうと思ったからには
並大抵の決意じゃなかったはずだ。
風貌は予想してたプロ馬券師には程遠く、昔風の言葉で言えば
’シティーボーイ’だった。
でも、時々見せる鋭い眼光が、やはり、他の一般馬券師と違う所以か
と思わせた。
昼食は私のリクエストのお好み焼きをご馳走になり、その後、また
コーヒーを飲みに連れていってくれた。
外観は普通の喫茶店なので、安心しきって入るといきなり目に飛び込んで
来たのは、メイド服だった。
「お帰りなさいませ、ご主人様!!」
え~~~??
ここは、メイド喫茶だったのか。
私はメイド喫茶初体験だった。
S氏はよくここに来るらしい。
お気に入りの子がいると聞いたのは店を出てからだった。
注文が決まった時、
「店員を呼ぶときは、このベルを手で振って鳴らすんやねん」
「え~~?また、からかってるんでしょう?」
「イヤ、ホンマでっせ」
しばらく周囲を観察して見たが、他に鳴らしている人はいなかった。
仕方なく意を決して鳴らしてみた。
「チリンチリン」
SMAP×SMAPと言う番組のビストロスマップで中居がダミ声で
「オーダー!」
と言っている時の気分だった。
「お決まりですかご主人様」
いちいち疲れるが、嫌いじゃなかった。
一人だけ、乳もでかくて、声のやけに通る子がいた。
声が通るから役者の卵なのかどうかを聞いてみたが
全然違うと言った。
「ダメでっせ、この店でナンパしちゃ」
そんなつもりはなかったのだが、常連のS氏に従った。
客層は意外にも女性が多かった。
勿論、よく見回してみるとアキバ系のキモい男も多かったが・・・。
肝心の競馬の話はするにはしたが、余計なことに目を取られ
時間だけが過ぎて行った。
ただ、その数時間でも、S氏は自分の競馬理論をとくとくと
話てくれた。
S氏の持論は
競馬は負けるのが当たり前。
勝つ馬は神のみぞ知ると言うスタンスだった。
八百長は少しはあるかも知れないけど、基本的には
仕組めないとも言っていた。
そこが、殆どすべてのことに疑いの目を向ける私とは
違っている。
私は、第レース前に骨折や、体調不良などで馬が出走取消を
するのでさえ疑うのである。
本当に骨折したのだろうかと。
足元不安なんて、本当に調教師はわかっているのか。
それよりも、今度のレースがあの有力馬が勝つので、お宅の
馬は遠慮してくれないかとJRAから打診があったために、
出走してミソをつけるよりは足元不安にしておいた方が
面目は保たれるとして取消になるのではないかとさえ思っている。
いずれにせよ、S氏から聞いた言葉は全て新鮮であった。
私が今迄馬券で中々勝てなかった時代の典型的な買い方も
ダメ出ししてくれた。
やっぱり、プロはこうやって買うんだ・・・。
でも、いくら有名になりたいからと言っても、ここまでこの私に
教えてもいいものだろうか。
S氏と言う人間が益々わからなくなってきた。
ただ、常に言っているのは、私と仲良くしたいと言ってくれたのだった。
どうして、こんなにアホバカ馬券ばかりメルマガで書いている人間が
好かれてしまったのだろう・・・。
なにか裏があるのか・・・
ここでも、私は、真に受けていないところがあった。
その後、事情があり、日帰りで東京まで戻らなければならず、夕方7時頃に
新大阪から新幹線に乗った。
缶ビールを飲みながら、駅弁を平らげた。
S氏の思いが頭の中を駆け巡り、何を食べたのかさえ、よく覚えて
いなかった。
今後、どうしたものか・・・・。
S氏はプロ馬券師である。
当然、払戻しは10円でも配当がいい方がいいに決まっている。
にもかかわらず、私に買い目を教えてくれると言うのである。
更に、私の有料会員様向けにも、ちょっとだけなら、買い目を
教えてもいいと言うのである。
ただ、S氏の実践している大脱走と言う馬券スタイルに限らず
どのレースが的中するかなんて、予想配信をしている
全ての馬券家にさえわからないのである。
よほどの自信がなければ、そんな事は言わないはずだ。
強行スケジュールと缶ビールのせいもあってか、頭の中が
少しだけスパークしそうになった。
私は、知らず知らずのうちに、新幹線のシートで寝てしまった。
つづく
