プロローグ 出会い
それは、11月のある日の事だった。
私は、事務所から帰るために地下鉄に乗ろうとしたその時であった。
滅多にならない私の携帯電話のバイブがブルブルと震えたのである。
かかったのは見慣れない電話番号。
(誰だこの人は?)
恐る恐る出てみる。
「もしもし、私Sいいますねん。大阪でプロ馬券師やってますねん」
「そうですか。初めまして。私は竹岡と申します」
「あんた、メルマガでオモロイこと書いてますけど、私、競馬を20年以上やってんねん。
競馬で負ける言うことが、私の人生にはないんやけど・・・」
「そうなんですか?どんな方法で?」
「そら、あんた、教えられまへん」
それはそうだろう。競馬で飯を食っている、馬券で飯を食っているのだから
普通は極意を教えることなどありえない。
ましてや、メルマガを見たと言うだけの見ず知らずの人間に。
「私の方法を使えば、4日あれば必ずプラスに出来ます」
マユツバだろうか・・・
それにしても、この人は何が目的なんだろう・・・
「わかりました。あなたの必勝法は本物みたいですが、それを証明と言うか、
私にちょっとだけでいいので教えてくれませんか?」
と私は聞いてみた。
「駄目ですわぁ。かあちゃんからも、絶対誰にも言わんでおきぃーやって言われてんねん」
では、この人は何の為に電話をしてきたのだろう・・・・
「どのような必勝法か知りませんが、万馬券をバンバン当てるのですか?
それとも、複勝コロガシや、追い上げですか?」
と聞いてみた。
「そんなもん、チャイます。追い上げで勝てるかもしれんけど、パンクが
怖いですねん。複勝も安全ですけど、儲かりまへん。
もっと良い方法があるんやけど、メルマガを見ている限りあんたには
わからへんやろなぁ・・・」
「大体必勝法と言うのは、必ず勝つと言うことやねん。
必ず勝つと言うても年間99レースでハズレで、最後の1レースで100万馬券を
取って、回収率200%ですとか、300%ですなんて言うても、そんなもん
必勝法でも何でもあらへんのと違いますか?」
確かにSさんの言うとおりである。
「私は4日間で勝ってみせます」
それにしても、すごい自信だ。
「わかりました。お金を払っても良いですから、4日間私にどうかSさんの
買い目を教えてください」
「弱ったなぁ・・・。かあちゃんには誰にも言うな言われてんねんけど・・・。
ほんなら、後でメールを送りますから、そこにお金を振込んどいてください。
そうしたら、4日間だけ教えましょ。そして、それで利益が出たら
買い目は終わり。それでどうですか?」
「結構です。ありがとうございます」
電話は地下鉄のホームで話したため、あまり良く聞き取れなかった
のもあるが、30分以上そこで話しただろうか。
見送った電車が7,8本。
携帯の電池がなくなってきた・・・
私は騙されてもいいと思いその話に乗っかってみようと思った。
それにしても、なぜ私のところに電話があったのだろう・・・。
この、競馬界で無名の私に。
期待と不安が入り混じる中、早く自宅に帰ってS師からのメールを待つことにした。
まさか、ウン万円なんて言うんじゃないだろうなぁ・・・。
そうしたらやめよう。
でも、アノ自信はちょっと気になる・・・。
早く電車が来ないかなぁ・・・。
ブツブツ独りごとを言いながら次に来たのは、新宿止まり電車であった。
西新宿まで行きたい私は
「くそう!こんな時に・・・」
運の悪いのは馬券だけではなかった・・・。
